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1990年代初頭から2000年代まで、主要な紛争が続く、ユーゴスラビアの内戦は、スロベニア紛争に始まり、マケドニア紛争まで10年間続いた内戦で、未だ記憶に新しい。
中でもボスニア・ヘルツェコビナ紛争は、悲惨を極め、死者20万、難民200万人が発生し、後のコソボ紛争真っ只中の1997年、僕はイタリア、ミラノへと旅立った。 バブル崩壊と共に日本の景気は後退し、会社でもリストラが横行し始め、そろそろ会社に見切りを付けようと、考えた頃だった。 こんなご時世、独立する為には、家具デザインに限らず、建築、インテリアなどの全体の知識が必要で、しかもこれからは、ローコストと云う方法を模索する必要があった。 バブル時代に展開した、高級素材を贅沢に使用したデザインは、もはや砂上の楼閣。安価な素材を、如何にシンプルに使用するか、しかも質感を兼ねたデザインが、これからの主流になると考えていた。 僕はそのヒントが、ミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ記念博物館や、古き建築物とシンプルモダンが混在されるミラノの街並みに期待を寄せていた。 マルペンサ国際空港からエキスプレスでチェントラーレ中央駅に到着し、ホテルへ向かうタクシーの中で.... 「あれは何?.....」 「アルバニア人の難民だ!」 「.................」 そう、街の至る所に難民の姿があった。 イタリアからアドリア海を隔てた旧ユーゴの国々は、船で五時間という近距離。ベネチアからクロアチアまでだと、三時間足らずの距離だった。 タクシーに近づいてくる、病的に痩せ細ったジャンキー。溜息をついた運転手は、1000リラを懐からとり出しその男に手渡した。 街の治安も最悪で、ひったくり、スリ、置き引きなどの犯罪が多様化し、偽警官に扮した男が麻薬取引の疑いを掛け、財布を出させ、巧みに高額紙幣やクレジットカードを抜き取るという犯罪もあった。 時節のカード支払は、現在のような暗証番号もなく、インタープリンターというアナログのエンボス式で刷った紙にサインするだけで支払えるといった、簡素な方法だった。 もはや僕はカモられないよう、外出する時は手ぶらで、サングラスをかけ、いかにも悪人ぶった振る舞いで街を歩いた。ドゥオーモ周辺で、ジプシーの子供に追い掛けられる、観光客を尻目に、街の中心部を探索し、ミラノの主要な場所も巡る事ができ、ホテル近くのバールへ足を運ぶようになった。サッカーのインテルファンが多い店で、毎晩飲みにやってくるジャポネーゼにも、気さくに話し掛ける、陽気な人達が多かったが、英語を話せる人が少なく、僕はイタリア語のポケットブックを手に、身振り手振りで話すのがやっとだったが、一際目を引くバールの店員に、英語が喋れる女性がいた。 鳶色の瞳に情熱的な姿が印象的で、栗色のロングヘアーに、パールのカチューシャをした女性だった。 年の頃24、5才であろうかと、僕も同い年ぐらいに思われていた。彼女の仕事上がりに話すようになった。ポーランド人とイタリア人のハーフで名はマリアといった。どことなくオリエンタルな雰囲気を持つ、美しい女性で、19才だとは思わなかったが、僕の32才にも驚いていた。 僕はデザインの勉強に、ミラノへやってきた事や、日本の話を、片言の英語と、紙に描く僕の絵に魅入ってくれて、その日々が、お互いの距離を近付けるよう、惹きつけられてゆき、敬虔なカトリック信徒でもあった彼女に、教会の日曜礼拝に誘われ、出かける約束をした。
カテドラルの荘厳な空間を目の当たりに、思わず茫然と立ち尽くす僕を、マリアは僕の腕を取って聖堂の中へと誘った。正面の講壇の上には、十字架に磔けにされたキリストの姿が、紺碧のステンドグラスを透過した陽光に晒され、その上方には、内照された聖母マリアのステンドグラスが彩られ、左右の出窓からも、シャルトル・ブルーの光が射し込んでいた。 僕達は静かに前方の長椅子に座り、マリアはポケットからロザリオとカトリックベールを取りだした。 チュールの布の端っこには、2、3センチばかし縫い付けられた飾りの刺繍が美しく、俯いたマリアの頭に、そっとベールを被せると、仄かに陽射しが映し出し、うっすらとした光背が浮き上がり、副虹に包まれた聖母マリアが現われた。 刹那その美しさに魅了され、彼女の天衣無縫な姿に心を奪われ、祈る姿に瞳を移しながら、揺蕩う香りに動揺を隠せなく、このままずっと彼女の傍に居られたらと。
by artedesign
| 2016-11-13 10:06
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